本記事は、IRB(内部格付手法)方式における特定貸付債権(Specialized Lending:SL)の分類と実務的な判定基準について解説するものです。
SA(標準的手法)では、SLのうち「IPRE」「HVCRE」の分類は存在せず、またRW計算の前提も異なる点に留意が必要です。
1. 特定貸付債権(SL)とは何か【IRB方式上の定義】
SLとは、IRB制度において、与信の返済原資が主に特定プロジェクトや資産のキャッシュフローに依存している貸出を指します。
この分類は、事業法人向けエクスポージャーの一部として扱われますが、評価手法やRWA計算の枠組みが通常の法人貸出とは異なる特別な制度設計となっています。
IRB方式では、以下の5分類に明確に限定されています:
2. SLの5分類とその概要(IRB方式限定)
分類 | 名称 | 主な対象 | 特徴 |
---|---|---|---|
PF | プロジェクトファイナンス | 発電所、空港、インフラ事業等 | プロジェクトの収益に返済が全面依存 |
OF | オブジェクトファイナンス | 船舶、航空機、設備等 | 特定資産のリースや使用料が返済原資 |
CF | コモディティファイナンス | 商品輸出入金融(原油、鉱物、穀物など) | 商品売買によるキャッシュフローに依存 |
IPRE | 収益不動産ファイナンス | 賃貸ビル、物流施設、収益アパート等 | 不動産の賃料収入に返済が依存(※IRB限定) |
HVCRE | 高ボラティリティ商業不動産 | 開発中の商業施設、再開発案件等 | 市場変動や開発結果に強く依存(※IRB限定) |
📌 IPREとHVCREはIRB方式における分類であり、SA方式には存在しません。
3. 分類判定の実務ポイント
分類は、債務者の属性ではなく、与信の構造と返済原資の性質に基づいて判断します。
主な判定基準:
- 返済が特定事業または資産のキャッシュフローに著しく依存しているか
- 担保資産が返済手段となっているか(資産依存性)
- 貸出対象がプロジェクト単体であるか(SPCや目的融資)
- 債務者の信用よりも案件の自立性で与信判断されているか
4. RWA評価とパラメータ推計(IRB方式)
IRB方式におけるSLのRWA計算は、以下の2つの方式のいずれかで行います:
▪ 原則:スロッティング・クライテリア(Slotting Criteria)
- 与信を5つのカテゴリ(Strong/Good/Satisfactory/Weak/Default)に分類
- 各カテゴリごとにバーゼル基準に基づいたRWを定める方式
- プロジェクトの収益性、契約の強度、担保、期間等の評価項目に基づき分類
▪ 例外:PD/LGD方式(監督当局の承認がある場合のみ)
- 一定の条件を満たす場合に限り、内部推計したPD・LGDを使用してRWAを算出可能
- 十分なデータ、モデル検証体制、格付制度の整備が前提条件
✅ まとめ:分類の精度と評価手法の整備が鍵
特定貸付債権(SL)は、一般的なコーポレート向けエクスポージャーから独立したリスク評価枠組みが設けられている特殊な貸出類型です。
正確な分類、Slotting Criteriaによる格付評価、PD/LGD方式の適用要件への適合性確認が、資本規制対応の質と整合性を左右します。
コメント