IRBにおけるアセットクラス分類の全体像

自己資本比率規制において「アセットクラス(Asset Class)」の分類は、信用リスク評価の起点であり、RWA(リスク加重資産)の計算、パラメータ推計、監督対応の全てに関わる基礎項目です。

本記事では、IRB(内部格付手法)におけるアセットクラスの制度的な定義と分類体系を、金融庁告示に準拠して正確に整理し、実務上の留意点を含めて解説します。


✅ IRB方式におけるアセットクラス分類【確定構造】

以下は、バーゼル規制および金融庁告示に基づく、IRB方式のアセットクラスの大分類体系(12区分)です。実務ではこの体系に従って、PD・LGD・EADの推計、RWAの計算、監督報告が行われます。


📘 分類表

大分類中分類英語名称備考
1. 事業法人等向け1-1. 事業法人向け(SL含む)Corporate incl. Specialized Lending製造業、小売業などの法人向け貸出。PF、OF、CF、IPRE、HVCRE等のSLも含まれる。
1-2. ソブリン向けSovereign中央政府、地方公共団体、中央銀行等。リスクウェイト0%が適用される場合もあり。
1-3. 金融機関等向けBank銀行、証券会社、保険会社等。大規模規制金融機関等か否かで適用される資産相関係数が異なる。
2. リテール向け2-1. 居住用不動産向けResidential Mortgage担保付き住宅ローン等。個人債務者、分散性が前提条件。
2-2. リボルビング型リテールQualifying Revolving Retailクレジットカード、カードローン等。限度額型で形式要件を満たすもの。
2-3. その他リテールOther Retail教育ローン、自動車ローン、個人事業者向け貸出など。
3. 購入債権3-1. 購入事業法人等向けPurchased Corporate売掛債権等。PDは債務者単位、LGDは信用補完を考慮。
3-2. 購入リテール向けPurchased Retail個人向け小口債権等。リテール要件を満たすことが必要。
4. 証券化SecuritizationABS、MBS、CLOなどの証券化商品。専用のRW計算方式を使用。
5. 株式Equity上場株、未上場株、ファンド持分等。原則として固定RW。
6. CCPCentral Counterparty中央清算機関(QCCP/非QCCP)に対するエクスポージャー。
7. その他Other Assets現金、未決済資産、固定資産等。通常はRW0~100%。

🔍 実務上のポイント

1. 分類は債務者属性と取引構造に基づく

例えば、事業法人とリテール、またはSLか否かは、債務者の属性や返済原資やキャッシュフローなどの客観基準で判断される必要があります。

2. モデル適用と分類は一体管理される

アセットクラスごとに、使用可能なIRB手法(FIRB/AIRB)やパラメータ推計の自由度が異なるため、分類の誤りはモデルの無効化リスクを招きます。

3. 金融庁の承認と文書化が不可欠

IRBの適用範囲や分類ルールは、事前に監督当局の承認を受け、文書化・内部管理体制として整備する必要があります。


✅ まとめ

IRB方式におけるアセットクラスの分類は、単なる入力項目ではなく、制度・実務・監督のすべてを貫く根幹構造です。正確な分類とその根拠管理が、資本規制対応の最初の防御線となります。


次回は、各アセットクラスを個別に取り上げた解説シリーズを開始します。
第1回は「事業法人向けエクスポージャー」、第2回は「特定貸付債権(SL)」を予定しています。

分類ごとの詳細を把握したい方は、ぜひ次回以降の記事もご覧ください。

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