1. CVAリスクと2つの計測手法
CVA(Credit Valuation Adjustment:信用評価調整)とは、デリバティブ取引において取引相手方の信用力悪化により当該デリバティブの価値が下落するリスクです。バーゼルIII最終化では、このCVAリスクに対する資本賦課の計算手法として、BA-CVA(基礎的アプローチ)とSA-CVA(標準的アプローチ)の2つが整備されました。
本記事では、より広く採用されるBA-CVAについて、その計算構造と実務上の論点を解説します。SA-CVAについては別記事で扱います。
CVAリスクの全体像についてはバーゼル規制におけるCVAリスクの基本と実務の全体像もあわせてご参照ください。
2. BA-CVAの位置づけ
BA-CVAは、SA-CVAの採用に必要な高度な体制(CVA感応度の算出能力等)を持たない銀行向けの基礎的な手法です。SA-CVAが当局の承認を必要とするのに対し、BA-CVAは承認なしに採用できます。
CVAリスクの計算手法の選択関係を整理すると以下のとおりです。
| 手法 | 当局承認 | 特徴 |
|---|---|---|
| SA-CVA | 必要 | CVA感応度ベースの精緻な計算。FRTBのSBMに類似 |
| BA-CVA | 不要 | カウンターパーティの想定元本・残存期間ベースの簡便な計算 |
| 簡便法 | ― | 国内基準行で一定要件を満たす場合、デリバティブのRWAに基づく簡便な計算が可能 |
なお、日本においては、想定元本の合計が10兆円以下の国内基準行は、CVAリスク相当額をデリバティブ取引等に係るリスクアセット(RWA)の12%とする簡便法を選択することが認められています。この簡便法を用いる場合、以下で解説する限定的なBA-CVA・完全なBA-CVAの計算は不要となります。
3. BA-CVAの2つのアプローチ
BA-CVAには、ヘッジを勘案するかどうかで2つのアプローチがあります。金融庁告示上は、それぞれ「限定的なBA-CVA」「完全なBA-CVA」と呼ばれます。
限定的なBA-CVA
CVAリスクのヘッジを一切勘案しないアプローチです。計算は単純で、カウンターパーティごとのリスク量を相関を考慮して集約するだけです。CVAヘッジを行っていない銀行はこちらを使用します。
完全なBA-CVA
適格なCVAヘッジ(シングルネームCDS・インデックスCDS等)の効果を勘案するアプローチです。ヘッジによるリスク削減効果を反映できますが、計算は複雑になります。CVAヘッジを実施している銀行はこちらを使用します。
完全なBA-CVAは限定的なBA-CVAをベースに、ヘッジ効果を表す項を加えた構造になっています。まず限定的なBA-CVAの計算構造を理解することが重要です。以下では限定的なBA-CVAを中心に解説します。
4. 限定的なBA-CVAの計算構造
限定的なBA-CVAの資本賦課は、以下の式で計算されます。
K = √( (ρ × Σ SCVAc)² + (1 − ρ²) × Σ SCVAc² )
- K:CVA資本賦課
- SCVAc:カウンターパーティcのCVAリスク量
- ρ:監督上の相関係数(0.5に固定)
この式の構造は、システマティックな要素(全カウンターパーティに共通の信用スプレッド変動)と、個別的な要素(各カウンターパーティ固有の変動)を分離して集約する点に特徴があります。
第1項 (ρ × Σ SCVAc)² はシステマティックな成分を表し、相関ρ=0.5を通じてカウンターパーティ間の共通変動を捉えます。第2項 (1 − ρ²) × Σ SCVAc² は個別成分を表し、各カウンターパーティ固有のリスクを捉えます。ρ²=0.25なので、(1−ρ²)=0.75が個別成分のウェイトとなります。
5. カウンターパーティごとのCVAリスク量(SCVA)
各カウンターパーティのCVAリスク量SCVAcは、以下の式で計算されます。
SCVAc = (1 / α) × RWc × Σ (MNS × EADNS × DFNS)
- RWc:カウンターパーティcの信用力に応じたリスクウェイト
- MNS:ネッティングセットの実効満期
- EADNS:ネッティングセットのEAD(SA-CCR等で計算)
- DFNS:割引ファクター(監督上の式で算出)
- α:1.4(SA-CCRのαと整合させるための調整)
ここで重要なのは、CVAリスク量がカウンターパーティの信用力(RWc)、取引の規模(EAD)、残存期間(M)の3要素で決まる点です。信用力が低いカウンターパーティほどRWcが大きく、取引規模が大きく残存期間が長いほどCVAリスクが大きくなります。
マチュリティ(MNS)の重要な特徴――IRBとの違い
CVA計算のインプットであるマチュリティMNSは、IRBで使用されるマチュリティとは異なる扱いがなされる点に注意が必要です。
IRBの信用リスクRW計算では、Mに上限5年のキャップが設けられています(AIRBの場合、下限1年・上限5年)。これに対し、CVAリスク計算のマチュリティMNSには5年の上限がありません。すなわち、残存期間が10年・20年といった長期のデリバティブ取引については、その実際の残存期間がそのままCVA計算に反映されます。
この差異の背景には、IRBが「デフォルト確率の累積効果」を見るのに対し、CVAリスクは「将来の信用スプレッド変動による時価変動リスク」を捉えるというリスクの性質の違いがあります。長期の金利スワップや通貨スワップを大量に抱える銀行では、CVA計算のマチュリティが想像以上に大きくなり、CVA資本賦課がIRBの感覚で見積もったよりはるかに大きくなるケースがあります。
実務上、CVAデスクのリスク管理においては、長期取引のマチュリティ効果を正しく把握することが資本効率の観点で重要となります。
リスクウェイト(RWc)の設定
RWcは、カウンターパーティの業種と信用力(格付)に応じて規制上定められています。主な水準は以下のとおりです。
| セクター | 投資適格(IG) | ハイイールド(HY)・無格付 |
|---|---|---|
| ソブリン・中央銀行・PSE | 0.5% | 2.0% |
| 金融機関 | 5.0% | 12.0% |
| 事業法人(素材・エネルギー・製造等) | 3.0% | 7.0% |
| 消費財・ヘルスケア・テクノロジー等 | 3.0% | 8.5% |
| その他セクター | 5.0% | 12.0% |
金融機関向けのRWが事業法人より高く設定されている点が特徴です。これは金融機関の信用スプレッドが市場全体の変動と連動しやすく、CVAリスクが大きいという考えに基づきます。
6. 完全なBA-CVA――ヘッジ効果の勘案
完全なBA-CVAは、限定的なBA-CVAにヘッジ効果を加味したものです。適格なCVAヘッジには以下が含まれます。
- カウンターパーティを参照するシングルネームCDS
- カウンターパーティと相関の高い参照先のシングルネームCDS
- インデックスCDS
完全なBA-CVAの計算式は限定的なBA-CVAより複雑で、ヘッジ対象とヘッジ手段の間の相関(直接ヘッジか間接ヘッジか)を考慮します。シングルネームCDSでカウンターパーティそのものをヘッジしている場合は高いヘッジ効果が、インデックスCDSによる間接的なヘッジの場合は限定的なヘッジ効果が認められます。
なお、CVAヘッジに用いることができるのは信用スプレッドのヘッジのみであり、エクスポージャー(時価)変動のヘッジは限定的・完全いずれのBA-CVAにおいても勘案できません。エクスポージャー変動のヘッジ効果を反映したい場合はSA-CVAの採用が必要です。これはBA-CVAの実務上の重要な制約です。
7. 実務上の留意点
(1)BA-CVAとSA-CCRの連携
BA-CVAの計算にはネッティングセットごとのEADが必要であり、これはSA-CCR(または IMM)で算出した値を用います。したがって、CVAリスク計算の前提としてカウンターパーティ信用リスクのEAD計算が完了している必要があります。SA-CCRのEAD計算についてはSA-CCRによるデリバティブのEAD計算をご参照ください。
(2)ヘッジ戦略との関係
BA-CVAの完全なアプローチでは信用スプレッドのヘッジのみが勘案されるため、CVAデスクのヘッジ戦略がBA-CVAの枠組みと整合しているかの確認が重要です。エクスポージャーヘッジを積極的に行っている銀行では、BA-CVAではその効果が反映されず、資本賦課が実態より大きく見える可能性があります。
(3)手法選択の判断
BA-CVAは計算が簡便な一方、リスク削減効果の反映が限定的です。デリバティブ業務の規模が大きく、精緻なCVA管理を行っている銀行はSA-CVAの採用を検討する価値があります。一方、デリバティブ業務が限定的な銀行にとっては、BA-CVAの簡便さが実務負荷の観点でメリットとなります。さらに、想定元本10兆円以下の国内基準行であれば、BA-CVAではなく簡便法(デリバRWA×12%)の選択も実務的な選択肢です。自行のデリバティブポートフォリオの規模・ヘッジ戦略・システム対応能力を踏まえた手法選択が求められます。
まとめ
BA-CVA(基礎的アプローチ)のポイントを整理します。
- BA-CVAは当局承認不要の基礎的手法。SA-CVAは承認が必要
- 限定的なBA-CVA(ヘッジ非勘案)と完全なBA-CVA(ヘッジ勘案)の2アプローチ
- 限定的なBA-CVAはシステマティック成分と個別成分を相関ρ=0.5で集約
- カウンターパーティのCVAリスク量は信用力(RW)・EAD・残存期間(M)の3要素で決定
- CVA計算のマチュリティMNSはIRBと異なり5年上限がない。長期取引では資本賦課が想像以上に大きくなる場合がある
- 金融機関向けRWは事業法人より高い設定
- 完全なBA-CVAで勘案できるのは信用スプレッドのヘッジのみ。エクスポージャーヘッジはSA-CVAが必要
- BA-CVAのEAD計算にはSA-CCR等の結果を使用
- 日本では想定元本10兆円以下の国内基準行はデリバRWAの12%とする簡便法を選択可能
次回は、より精緻なSA-CVA(標準的アプローチ)について解説します。CVA感応度ベースの計算構造や、FRTBのSBMとの類似性などを扱います。
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