FRTBにおける標準的手法(SA)――感応度ベース計算と3つの構成要素

市場リスク

1. FRTBにおける標準的手法(SA)の位置づけ

FRTB(Fundamental Review of the Trading Book)は、バーゼルIII最終化において市場リスク規制を抜本的に再構築した枠組みです。FRTBにおけるリスク資本賦課の計算手法には、標準的手法(SA:Standardised Approach)内部モデル方式(IMA:Internal Models Approach)の2種類があります。

IMAは当局の事前承認が必要で、トレーディングデスク単位でのモデル評価(バックテスト・P&Lアトリビューションテスト)に合格した銀行のみが採用できます。一方SAは、当局承認なしに使用できる標準手法で、すべての銀行が原則として採用可能です。

本記事ではFRTBにおけるSAについて、その3つの構成要素と感応度ベース計算の仕組みを解説します。

2. FRTB-SAを構成する3つの要素

FRTB-SAによる市場リスク資本賦課は、以下の3つの構成要素の合計として算出されます。

FRTB-SA資本賦課 = SBM + DRC + RRAO

  • SBM(Sensitivities-Based Method:感応度ベース手法):通常の市場変動による損失を捉える主要要素
  • DRC(Default Risk Capital:デフォルトリスク資本):トレーディング勘定保有の債券・株式等の発行体デフォルトによる損失を捉える
  • RRAO(Residual Risk Add-On:残余リスクアドオン):SBMで捉えきれない複雑な商品のリスクを保守的に上乗せ

従来のバーゼル2.5までの市場リスク計算(VaRベース)とは大きく構造が異なります。FRTB-SAは、リスクファクターごとの感応度(デルタ・ベガ・カーバチャ)を起点とした精緻な計算が特徴です。以下、それぞれの構成要素を順に解説します。

3. SBM――感応度ベース手法の基本構造

SBMはFRTB-SAの中核をなす計算手法です。トレーディング勘定の保有ポジションを、リスクファクターごとの感応度に分解した上で、規制上定められたリスクウェイトと相関係数を用いて資本賦課を算出します。

3つの感応度

SBMでは、ポジションを以下の3種類の感応度に分解します。

感応度 意味 対象商品
デルタ リスクファクターの線形的な変動に対する価値の変化 すべての商品
ベガ ボラティリティの変動に対する価値の変化 オプション性のある商品
カーバチャ リスクファクターの大きな変動に対する非線形的な価値変化(ガンマに相当) オプション性のある商品

デルタはすべての商品に適用される基本的な感応度です。ベガとカーバチャはオプション性(凸性)のある商品(オプション、スワプション、転換社債等)に追加で適用されます。プレーンバニラの債券や金利スワップではデルタのみで十分捉えられますが、オプションを含む商品ではベガとカーバチャの計算も必要です。

7つのリスククラス

SBMでは、リスクファクターを以下の7つのリスククラスに分類します。

リスククラス 主なリスクファクター
金利(GIRR) 各通貨のイールドカーブ、インフレ率、クロスカレンシーベーシス
信用スプレッド(非証券化) 事業法人・ソブリン等のクレジットスプレッド
信用スプレッド(証券化・非CTP) 非相関取引ポートフォリオの証券化商品
信用スプレッド(証券化・CTP) 相関取引ポートフォリオ(CTP)の証券化商品
株式 個別株価、株価指数、レポレート、配当
コモディティ 各種商品価格(エネルギー・金属・農産物等)
為替(FX) 通貨ペアの為替レート

各リスククラスについて、デルタ・ベガ・カーバチャの3種類の資本賦課を独立に計算し、最後に合算します。

4. SBMの計算プロセス

SBM資本賦課の計算は、以下の3ステップで行います。

Step 1:感応度の算出とリスクウェイトの適用

ポジションの各リスクファクターに対する感応度を計算し、規制上定められたリスクウェイトを乗じて「加重感応度」を求めます。

加重感応度 = 感応度 × リスクウェイト

リスクウェイトはリスククラスごとに、テナーや格付等に応じて細かく規定されています。例えば金利デルタのリスクウェイトは満期に応じて以下のとおりです。

満期 金利デルタのリスクウェイト
0.25年 1.7%
0.5年 1.7%
1年 1.6%
2年 1.3%
5年 1.2%
10年 1.1%
30年 1.1%

Step 2:バケット内の集約(相関ρを使用)

同一バケット(例:同一通貨の金利、同一発行体の信用スプレッド)内で、加重感応度を相関係数ρを用いて集約します。集約式は以下のとおりです。

Kb = √(Σ WSk² + Σ Σ ρk,l × WSk × WSl)

ここで、WSkは加重感応度、ρk,lはバケット内のリスクファクター間相関、Kbはバケットbのリスク量です。

相関ρはリスクファクター間の関連性を反映します。例えば同一通貨の金利カーブにおいて、隣接する満期点(例:2年と5年)は相関が高く、離れた満期点(例:3ヶ月と30年)は相関が低く設定されています。

Step 3:バケット間の集約(相関γを使用)

バケット間の集約には別の相関係数γを使用します。

SBM資本賦課 = √(Σ Kb² + Σ Σ γb,c × Sb × Sc)

ここでSbはバケットbの符号付きの加重感応度合計、γb,cはバケット間相関です。

3つのシナリオによる保守化

SBMでは、相関係数を3つのシナリオ(Low・Medium・High)で計算し、そのうち最大の値を採用することで保守化を図ります。

シナリオ 相関係数の調整
Low 規定値 × 0.75
Medium 規定値(標準値)
High min(規定値 × 1.25, 100%)

市場ストレス時には、本来は無相関のリスクファクター間で相関が高まる(または低い相関が逆方向に動く)現象が観測されます。3シナリオの最大値を取ることで、こうしたストレス時の相関構造の変動に備える設計です。

なお、Lowシナリオの計算においては、単に相関係数に0.75を乗じるだけでなく、バケット間集約の式に登場するSb(バケット内の符号付き加重感応度合計)について、ネット化の効果を弱める処理(規制上の調整)が施されます。具体的には、ネガティブな値を相殺する効果を制限することで、ストレス時の保守性を確保しています。実務上の計算ではこの調整を見落とすと結果が大きく異なるため、注意が必要です。

5. DRC――デフォルトリスク資本

DRCは、トレーディング勘定で保有する債券・株式・CDS等の発行体デフォルトに伴う損失を捉える資本賦課です。SBMはあくまで価格変動(スプレッドの変動)を捉える手法であり、突発的なデフォルトによるジャンプリスクは別途DRCで捕捉します。

DRCは3つの区分で計算されます。

  • DRC(非証券化):事業法人債券・株式・ソブリン債等
  • DRC(証券化・非CTP):RMBS・CMBS・ABS等の通常の証券化商品
  • DRC(証券化・CTP):相関取引ポートフォリオ(CTPは欧州中心の特殊商品)

DRC(非証券化)の基本構造は以下のとおりです。発行体ごとにロングポジションとショートポジションをネット化し、ネットロングポジションに格付に応じたデフォルトリスクウェイトを乗じます。

主なデフォルトリスクウェイト(DRC・非証券化)

区分 デフォルトリスクウェイト
ソブリン(自国通貨建て自国国債等) 原則0%(信用リスクSAと整合)
その他ソブリン・投資適格 0.5%〜3%程度
事業法人・投資適格 0.5%〜3%程度
投機的格付 6%〜15%程度

ソブリン(自国通貨建ての自国国債等)については、信用リスクSAのリスクウェイトと整合する形で原則として0%のデフォルトリスクウェイトが適用されます。このため、日本国債を大量に保有するトレーディングデスクであっても、DRCの計算上はこれらの保有がDRC資本賦課を大きく押し上げることはありません。

6. RRAO――残余リスクアドオン

RRAOは、SBMとDRCで捉えきれない複雑な商品のリスクを保守的に上乗せする要素です。具体的には、商品の想定元本に規制上のリスクウェイトを乗じて算出され、以下の2類型に分類されます。

エキゾチック下層リスク(リスクウェイト:1.0%)

天候、自然災害、長寿リスクといった通常の市場リスククラスに分解できないエキゾチックな原資産を持つ取引が該当します。また、原資産自体は通常でもpayoff(損益構造)に強い非線形性・経路依存性がある商品もこのカテゴリーに含まれます。具体的には以下のような商品が該当します。

  • デジタルオプション(バイナリーオプション)
  • バリアオプション(ノックイン・ノックアウト等)
  • パスデペンデント型オプション(ルックバック型・アジアン型等)
  • 天候デリバティブ・自然災害デリバティブ・長寿リスク取引

他の残余リスク(リスクウェイト:0.1%)

1.0%の類型には該当しないものの、SBMの枠組みだけではリスクを完全に捕捉しきれない商品が該当します。具体的には以下のような商品です。

  • プレーンバニラではないインデックス・バスケット型オプションのように、複数のリスクファクター間の相関に依存する商品
  • ボラティリティ・スマイルに関するリスクなど、SBMで捕捉できない特殊リスク

RRAOの位置づけは、精緻なリスク計算(SBM)ではカバーしきれない「モデルリスク」「ギャップリスク」を、想定元本ベースで確実に捕捉する2段階構造のセーフティネットとなっています。商品の payoff 構造を見て、経路依存性やバリアがあれば1.0%、相関やボラティリティ・スマイルに依存するものは0.1%という判別が実務上のポイントとなります。

7. 旧バーゼル2.5までの市場リスク計算との比較

FRTB-SAは、従来の市場リスク標準的方式と全く異なる設計思想で構築されています。主な違いを整理します。

論点 旧標準的方式 FRTB-SA
計算ベース 名目元本・残高ベース 感応度ベース
リスク種類の区分 金利・株式・為替・コモディティの4区分 7リスククラス×3感応度
オプションの扱い 簡易な扱い(一部デルタプラス法) デルタ・ベガ・カーバチャで精緻に評価
相関の反映 限定的 バケット内ρ・バケット間γで体系的に反映
デフォルトリスク 信用リスクで一括処理 DRCとして独立に計算
計算負荷 軽い 重い(感応度計算とシナリオ計算が必要)

FRTB-SAは旧手法に比べて格段にリスク感応度が高い設計となっていますが、その分計算負荷も大きく、感応度計算のためのシステム整備が大きな投資となります。

8. 簡易標準的方式について

FRTBでは、トレーディング業務の規模が小さい銀行(一定の基準値以下)向けに、簡易標準的方式(SSA:Simplified Standardised Approach)が用意されています。簡易標準的方式は実質的に旧バーゼル2.5の市場リスク標準的方式に近い構造で、感応度計算を行わずに名目残高ベースで資本賦課を算出します。算出された値に対して規制上のスケーリングファクター(1.3)を乗じることで、FRTB-SAとの整合性を取る設計です。

日本における適用関係の注意点

日本の規制適用においては、国内基準行(地域金融機関等)はそもそもFRTBの適用対象外です。金融庁は国際統一基準行に対してFRTB-SAの適用を求めていますが、国内基準行には現行のバーゼル2.5ベースの旧標準的方式の維持が認められています。

このため、日本の地方銀行や信用金庫等の国内基準行は、FRTBの簡易標準的方式(SSA)を選択する必要そのものがなく、引き続き旧来の市場リスク規制が適用されます。FRTBの簡易標準的方式(SSA)は、主として海外(欧州・米国等)の中堅規模の国際統一基準行のインフラ負担軽減を目的としたオプションという位置づけです。

9. 日本における適用とSA/IMAの選択

日本では、バーゼルIII最終化の段階適用に伴いFRTBも実施されています。国際統一基準行は2024年3月末から本格的にFRTBへの移行が進められており、各行はSA・IMAのいずれを採用するか戦略的に判断しています。

IMA採用には以下の高いハードルがあります。

  • デスク単位のモデル承認が必要
  • P&Lアトリビューションテスト(PLA)に合格する必要
  • バックテストの合格
  • モデル化可能リスクファクター(MRF)とモデル化不可能リスクファクター(NMRF)の区分管理

これらの要件が厳しいため、FRTB導入後はIMA採用デスクを縮小しSAに移行する動きが世界的に見られます。SAは規模を問わず採用でき、計算プロセスも明確であるため、実務的にはSAが主流となっています。

まとめ

FRTBにおける標準的手法(SA)のポイントを整理します。

  • FRTB-SA = SBM + DRC + RRAO の3要素で構成
  • SBMはデルタ・ベガ・カーバチャの3感応度と7リスククラスで計算
  • バケット内(ρ)・バケット間(γ)の2層の相関構造を用いて集約
  • Low/Medium/High の3シナリオでストレス時の相関変動を保守化。LowシナリオではSbのネット化制限も適用される
  • DRCは発行体デフォルトのジャンプリスクを別建てで捕捉。自国通貨建てソブリン債は原則RW=0%
  • RRAOはエキゾチック下層リスク(1.0%:バリア・デジタル・パスデペンデント等)と他の残余リスク(0.1%:相関依存・ボラティリティスマイル等)に分類
  • 旧標準的方式に比べて感応度ベースの精緻な計算となり、計算負荷も大幅に増加
  • 小規模行向けには簡易標準的方式が用意されているが、日本では国内基準行はFRTB自体の適用対象外
  • 世界的にはIMA要件の厳しさからSAが主流となる傾向

FRTBの全体像についてはFRTBによる市場リスクの再構築を、市場リスク規制の歴史的経緯についてはバーゼルII〜III初期の市場リスク枠組みとVaR手法の限界をあわせてご参照ください。

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