1. EADとは何か――基本的な定義
EAD(Exposure at Default:デフォルト時エクスポージャー)とは、債務者がデフォルト(債務不履行)した時点において、銀行が当該債務者に対して抱えているエクスポージャーの額を指します。自己資本比率規制における信用リスクアセット(RWA)の計算式は以下のとおりです。
RWA = EAD × RW(リスクウェイト)
EADは、この計算式における「どれだけのエクスポージャーを抱えているか」を定量化するパラメータです。PD(デフォルト確率)やLGD(デフォルト時損失率)と並ぶ信用リスクの三大パラメータの一つであり、RWAの水準を直接左右します。
本記事では、EADの計算の基礎となるオンバランス項目の扱いと、実務上の論点が多いオフバランス項目のCCFによる換算を中心に解説します。SA-CCRによるデリバティブのEAD計算、包括的手法による担保を用いたEAD削減については後続記事で扱います。
2. オンバランス項目のEAD
【用語の注記】「与信相当額」と「EAD」について
厳密には、標準的手法(SA)における金融庁告示の条文上の用語は「与信相当額」であり、「EAD」という表現はIRB方式に固有の用語です。ただし本記事では、SA・IRBを横断して信用リスクの概念を整理する便宜上、両者を区別せず「EAD」で統一して解説します。実際の告示・監督指針を参照する際は「与信相当額」という表現に読み替えてください。
オンバランス項目の基本的な考え方
貸出金・債券など、すでにバランスシートに計上されているオンバランス項目については、原則として帳簿上の残高をEADとして用います。ただし、引当金・償却の取り扱いについてSAとIRBで異なる点があり、実務上の注意が必要です。
引当金・直接償却の控除に関するSA・IRBの違い
| 項目 | SAにおける扱い | IRBにおける扱い |
|---|---|---|
| 個別貸倒引当金 | 控除前(グロス)のEADを使用 | 控除前(グロス)のEADを使用 |
| 部分直接償却額 | 控除後(ネット)のEADを使用 | 控除前(グロス)のEADを使用 |
SAにおける延滞エクスポージャーの規定(第71条)では、部分直接償却は償却済みとして控除後残高をベースとします。一方、IRBにおいては告示第157条により、オンバランスEADは「個別貸倒引当金・部分直接償却額・購入債権ディスカウント額の合計を下回らない額」とすることが求められており、部分直接償却額も控除前(グロス)で扱うことになります。
したがって、部分直接償却の取り扱いはSAとIRBで逆になる点に注意が必要です。実務上はIRB採用行においても部分直接償却をグロスで管理することが告示上の要請となっています。
IRB実務における保守的対応
IRBにおいては個別貸倒引当金・部分直接償却の両方について控除前(グロス)での管理が告示上求められています。しかし実務上は、部分直接償却と引当金を厳密に区分してEADを管理することが困難なケースも多く、結果として保守的にグロスで管理しているケースが多いと言えます。
グロスで計上すればEADが大きくなり、RWAは保守的(大きめ)に計算されます。監督当局との関係においては保守的な対応であるため、直ちに問題となるわけではありませんが、資本効率の観点からは正確な管理が望ましいです。
複数の債務がある場合
同一の債務者に対して複数の与信が存在する場合、それぞれの与信ごとにEADを計算し、合算します。ネッティング合意がある場合は後続記事で説明する包括的手法の対象となります。
3. オフバランス項目とCCF
与信枠(コミットメントライン)・保証・貿易信用状など、バランスシートに計上されていないオフバランス項目は、そのままではEADを計算できません。これらについては、クレジット・コンバージョン・ファクター(CCF:信用換算率)を乗じてオンバランス相当額に換算します。
EAD = オフバランス項目の名目元本 × CCF
CCFの考え方は、「デフォルト時点においてオフバランス項目がどの程度引き出されてオンバランス化するか」という推定確率を数値化したものです。例えばCCFが50%であれば、コミットメント残高の50%がデフォルト時に実際に引き出されていると想定してEADを計算します。
4. バーゼルIII最終化後のCCF一覧
バーゼルIII最終化(日本では2024〜2025年適用)により、CCFが大幅に見直されました。主要なオフバランス項目のCCFは以下のとおりです。
(1)コミットメント(与信枠)
| 区分 | 旧SA(改定前) | 旧FIRB(改定前) | 新SA・新FIRB(改定後) |
|---|---|---|---|
| 無条件で取り消し可能なコミットメント | 0% | 0% | 10%(例外あり) |
| 取り消し不能・原契約期間1年以内 | 20% | 75% (期間区分なし) |
40% (期間区分なし) |
| 取り消し不能・原契約期間1年超 | 50% |
旧SA(改定前)では取り消し不能コミットメントを原契約期間の長短(1年以内か否か)で区分していましたが、旧FIRB(改定前)では原契約期間に関わらず一律75%が適用されていました。新SA・新FIRBではこの期間区分が撤廃され、取り消し不能コミットメントは一律40%に統一されています。なお、AIRBでは引き続きCCFを自行推計することが可能です。
特に注目すべきは、無条件取り消し可能なコミットメントのCCFが0%から10%に引き上げられた点です。改定前はCCF0%のため実質的にRWAへの影響がゼロでしたが、改定後は10%分がEADとして計上されます。
【例外】与信相当額の算出が不要となる場合
ただし、金融庁告示の規定により、無条件で取り消し可能なオフバランス取引(コミットメントライン等)のうち、以下の5つの要件をすべて満たすものについては、与信相当額(EAD)の算出が不要とされています。すなわち、実質的にCCF=0%として扱うことができます。
- 取引の相手方が法人等であること。ただし、事業者たる個人が相手方である場合は、当該取引が事業性のものであるときに限る。
- 取引の契約の締結および維持にあたって、手数料その他これらに類する経費を受領していないこと。
- 取引の相手方が信用供与枠の引出しをするときは、その都度、当該相手方からの申請が行われること。
- 取引の相手方による信用供与枠の引出しに係る全ての権限を標準的手法採用行が有していること。
- 取引の相手方による信用供与枠の引出しの承認にあたっては、第三号に規定する申請の都度、当該相手方の信用力の評価を標準的手法採用行が行っていること。
実務上のポイントとして、要件②(手数料の不受領)と要件④(全権限の保持)は特に確認が必要です。コミットメントフィーを受領している場合や、自動引出し条件が契約上定められている場合は、この例外に該当しません。5要件の充足状況は契約単位で確認・記録しておくことが求められます。
(2)貿易金融関連
| 区分 | CCF | 告示上の定義 |
|---|---|---|
| 短期かつ流動性の高い貿易関連偶発債務 | 20% | 契約期限までの満期が1年未満である船荷により担保された商業信用状の発行または確認によるもの。発行銀行および確認銀行に適用。 |
【重要】日本告示における適用範囲の限定
CCF20%の適用範囲については、国際基準(BCBSルール)と日本の告示の間に重要な差異があります。
BCBSの国際基準では、CCF20%の対象は「短期かつ流動性の高い貿易関連偶発債務等」とされており、「等」という文言によって一定の包括性が認められています。これに対し、日本の金融庁告示(第78条)では「等」の文言がなく、対象が以下に明示的に限定されています。
- 契約期限までの満期が1年未満であること
- 船荷により担保された商業信用状であること
- 商業信用状の発行または確認によるものであること
このため、実務上は以下のような取引がCCF20%の対象となるかどうか慎重な判断が必要です。
| 取引例 | 日本告示上の扱い |
|---|---|
| 船荷担保・満期1年未満の輸入LC(発行銀行) | CCF20%対象(明示的に該当) |
| 船荷担保・満期1年未満の輸入LC(確認銀行) | CCF20%対象(明示的に該当) |
| 船荷担保なしの貿易信用状 | CCF20%対象外の可能性(告示の文言上は非該当) |
| 満期1年以上の貿易信用状 | CCF20%対象外(期間要件を満たさない) |
| 引取保証・船積保証等 | CCF50%(特定の取引に係る偶発債務)に分類される可能性 |
国際基準の「等」が包含し得る貿易金融商品(例:一部の銀行引受手形、特定のスタンドバイLC等)であっても、日本告示の文言上はCCF20%ではなくCCF50%または100%に分類せざるを得ない場合があります。実務上は個別取引ごとに告示の要件との照合を行い、必要に応じて監督当局へ確認することが重要です。
(3)その他のオフバランス項目
| 区分 | CCF |
|---|---|
| 直接的な信用代替物(保証・信用状等) | 100% |
| 特定の取引関連偶発債務 | 50% |
| 有価証券の貸付・売戻条件付売却等 | 100% |
| NIF(ノートイシュアンスファシリティ)またはRUF(リボルビングアンダーライティングファシリティ) | 50% |
【実務上の判断基準】CCF100%とCCF50%の見分け方
保証・信用状等の偶発債務については、CCF100%(信用供与に直接的に代替する偶発債務)とCCF50%(特定の取引に係る偶発債務)のいずれに該当するかの判断が実務上の論点となります。金融庁Q&A(第78条-Q1)では以下のように区別されています。
| 区分 | CCF | 性質 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 信用供与に直接的に代替する偶発債務 | 100% | 取引相手方の金融債務そのものを直接保証することによって生ずる偶発債務 | 借入金の保証、有価証券の保証、手形の引受け、脱税保証、租税延滞保証、運賃等後納保証、元本補填信託契約等 |
| 特定の取引に係る偶発債務 | 50% | 金融債務そのものではなく、日常業務の取引遂行能力に関して保証することによって生ずる偶発債務 | 契約履行保証、入札保証、品質保証、貿易取引に係る引取保証、貨物貸および前受金返還保証、前払式証票発行保証等 |
判断の核心は、「相手方の金融債務の履行を直接保証しているか」(CCF100%)か、「相手方の業務遂行能力・履行義務を保証しているか」(CCF50%)という点にあります。同じ「保証」という形式であっても、保証の対象が金融債務か業務履行義務かによってCCFが異なります。
なお、フォワード・コミットメント(将来の融資・有価証券購入等を約束する取引)については、原則としてCCF40%が適用されます。ただし、銀行が一定の通知期間なく無条件で取消可能な場合には、CCF10%が適用されます(取消可能な期間が設定されている場合はその期間に限ります)。
5. 実務上の重要論点
(1)「無条件取り消し可能」の認定基準
CCF10%(旧0%)が適用される「無条件で取り消し可能なコミットメント」については、契約上の取り消し権限が実質的に行使可能かどうかが論点となります。形式的に取り消し条項があっても、顧客との関係上実質的に取り消しが困難な場合、監督当局から「実質的には取り消し不能」と判断されるリスクがあります。
(2)未使用コミットメントの管理
バーゼルIII最終化後、これまでCCF0%として管理上ほぼ無視されていた無条件取り消し可能コミットメントも資本所要量の計算対象となりました。残高の把握・モニタリング体制の整備が実務的に求められます。
(3)複合商品の分類
一つの契約がコミットメントと保証の両方の性質を持つ場合など、複合的な商品についてはどのCCFを適用するかの判断が必要です。告示・Q&Aおよび監督指針を参照しつつ、保守的な判断を行うことが原則です。
(4)IRBにおけるCCF推計
内部格付手法(IRB)のうち先進的IRB(AIRB)を採用している場合、コミットメント等のオフバランス項目に適用するCCFを、当局指定値ではなく自行推計値を用いることができます。自行推計の場合は過去の実績データに基づく厳格な推計プロセスと検証が求められ、監督当局の承認が必要です。
一方、基礎的IRB(FIRB)では、CCFは当局指定値(新SAと同じ水準)を使用します。また、バーゼルIII最終化によりAIRBの適用可能範囲が一部制限されており(金融機関向け・売上高500億円超の事業法人向け等はFIRBのみ)、これらの資産クラスについてはAIRB行であってもCCFの自行推計は認められません。
なお、AIRBでCCFを自行推計する場合でも、リボルビング型エクスポージャー(例:クレジットカード与信枠)については信用供与枠の未引出額に推計CCFを乗じた額または直接推計した額をオフバランスEADとします。ただし、FIRBにおいて100%のCCFが適用される場合はその限りではありません。
6. EADとRWAの関係:計算例
以下に、オフバランス項目を含む簡単な計算例を示します。
ある銀行がA社に対して以下の与信を保有しているとします(SA適用、A社は無格付の事業法人でRW=100%)。
- 貸出金残高:100億円(オンバランス)
- コミットメント(無条件取り消し可能・未使用):50億円(オフバランス)
- 保証(借入金保証):30億円(オフバランス)
各項目のEADは以下のとおりです。
| 項目 | 名目残高 | CCF | EAD |
|---|---|---|---|
| 貸出金(オンバランス) | 100億円 | 100% | 100億円 |
| コミットメント(無条件取り消し可能) | 50億円 | 10% | 5億円 |
| 保証(借入金保証=信用供与に直接代替) | 30億円 | 100% | 30億円 |
| 合計EAD | — | — | 135億円 |
RWA = 135億円 × 100% = 135億円
なお、改定前(旧SA・CCF=0%)であれば合計EADは130億円(=100+0+30)でRWAも130億円でした。無条件取り消し可能コミットメントのCCF引き上げにより、RWAが5億円増加していることが分かります。
まとめ
EAD計算の基本と、オフバランス項目のCCFによる換算について解説しました。ポイントを整理すると以下のとおりです。
- SAでは「与信相当額」、IRBでは「EAD」と呼ばれるが、本質的に同じ概念
- オンバランス項目のEADは、個別貸倒引当金は控除前(グロス)。部分直接償却はSAでは控除後(ネット)、IRBでは控除前(グロス)が告示上の要請
- オフバランス項目はCCFを乗じてオンバランス換算する
- 無条件取り消し可能コミットメントはCCF10%だが、5要件を満たせばCCF0%相当の例外適用が可能
- CCF20%(貿易LC)は日本告示では「等」がなく適用範囲が限定的
- CCF100%と50%の区別は「金融債務の直接保証か、業務遂行能力の保証か」が判断の核心
- 旧FIRBのコミットメントCCFは期間区分なし一律75%。新SA・新FIRBで一律40%に統一
- AIRBではCCFの自行推計が可能だが、一部資産クラスは対象外
次回は、担保・保証・ネッティングを活用した信用リスク削減手法(CRM)と包括的手法によるEAD削減について解説します。また、デリバティブのEAD計算についてはSA-CCRによるデリバティブのEAD計算で扱います。
EADの基本概念についてはEADの基本概念と貸出債権も合わせてご参照ください。