EADの基本概念と貸出債権

1. EADとは何か

EAD(Exposure at Default、デフォルト時エクスポージャー)とは、
「債務者がデフォルトしたときに、銀行がどれだけのエクスポージャーを抱えているか」 を表す指標です。

自己資本比率規制における信用リスク・アセット(RWA)は RWA=EAD×RWという基本式で計算されます。
ここでRW(Risk Weight)は信用リスクの重みづけを示す係数であり、EADがその基礎となります。

注意:標準的手法(SA)では「EAD」という用語は使わず「与信相当額」と表現されます。ただし本記事では便宜的に「EAD」に統一して説明します。


2. 貸出債権におけるEAD

貸出債権については、原則として簿価残高がEAD になります。
すなわち、融資残高が10億円あれば、EADも10億円です。

ただし、計算方法は SAとIRBで異なります

  • SA(標準的手法)
    引当金や償却済み部分は控除され、純額がEADとなります。
  • IRB(内部格付手法)
    引当金や償却分は減算されず、償却済の部分も「復活」してEADに含めるという取り扱いになります。

3. オフバランス項目の扱い

貸出以外の与信取引、例えば 与信コミットメント(貸出枠)、保証、信用状(LC) などは、直接簿価残高をEADとすることができません。
こうした場合は コンバージョンファクター(CCF) を使ってEADに換算します。

この点は次回の記事「コンバージョンファクター(CCF)の仕組み」で詳しく解説します。


4. 具体例

例1:通常の貸出

  • 銀行がA社に対して10億円の貸出を行っている場合
    → EAD = 10億円

例2:貸出と保証の組み合わせ

  • A社への貸出 10億円(EAD=10億円)
  • B社の債務保証 5億円(CCFを50%と仮定した場合)
    → 合計EADは 10億円+5億円=15億円 となる。

5. 実務上のポイント

  • EADは「将来デフォルトが発生した場合に銀行が抱える可能性のある与信残高」 を示すものである。
  • IRB手法ではEADを自行推計する場合もあり、過去データからデフォルト時の実際の利用率を統計的に推定する。
  • SA手法では規制上定められた換算ルールに従って計算するため、柔軟性は低いが一貫性が保たれる。
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