1. リテール向けとは?——IRB制度上の定義
IRB方式における「リテール向けエクスポージャー」とは、個人または中小企業に対する少額かつ分散された与信を指し、信用リスクが特定の債務者に集中しないことが制度上の前提条件です。
リテール区分は、他のアセットクラスとは異なり、AIRBでもFIRBでもLGDおよびEADの自行推計が求められる特別なカテゴリです。
また、評価単位は債務者ごとではなく、属性の均一なプール単位で管理・リスク推計が行われることが多く、統計的モデルの整備が鍵となります。
2. 制度上の3分類(制度定義に基づく最終版)
区分 | 内容 | 制度上の特徴 |
---|---|---|
居住用不動産向けエクスポージャー | 自宅購入や住宅関連費用の個人向け貸付 | 最大1億円、賃料依存の有無、プール管理が要件 |
適格リボルビング型エクスポージャー | 無担保で取消可能な与信 | 残高1000万円以下、損失ボラティリティ要件あり |
その他リテール | 上記2つに該当しない個人または中小企業向け与信 | 保証控除後で一億円未満、事業性与信は除外 |
【詳細定義】① 居住用不動産向けエクスポージャー
次のいずれかに該当し、同様のリスク特性を有するプールに属して管理されていること:
- イ:不動産を所有・居住する個人向け貸付け
- ロ:
- 個人向け
- 資金使途が住宅建設・取得・増改築等に限定
- 以下いずれかを満たす:
- 賃貸目的でない
- 賃料収入に依存しない
- 信用リスク削減前のエクスポージャー額が一億円以下
【詳細定義】② 適格リボルビング型リテール向けエクスポージャー
次のすべてを満たすプール単位の与信:
- 無担保で、契約上の上限の範囲内で債務残高が変動し得る
- 信用供与枠の維持契約なし、銀行が無条件に取消可能
- 個人向け
- 残高上限が1,000万円以下
- 損失率のボラティリティが低い
- 損失率のデータが適切に蓄積されている
【詳細定義】③ その他リテール向けエクスポージャー
以下のいずれかに該当し、他の2分類に属さないもの:
- イ:個人向け(ただし事業性を除く)
- ロ:中小企業向け等で、信用保証控除後の残高が1億円未満(一時的超過可)
3. リスクパラメータとIRB方式の特徴
パラメータ | リテールにおける扱い |
---|---|
PD(デフォルト確率) | プール単位または債務者格付単位で自行推計 |
LGD(損失率) | FIRBでも自行推計が必要 |
EAD(与信額) | FIRBでも自行推計が必要 |
- 債務者単位ではなく、似通った属性を持つエクスポージャー群(プール)ごとの統計モデルが中心
- SAとの乖離管理やOutput Floor対応の観点から、SAベースの並行算定が推奨
4. 実務対応と内部管理上の留意点
観点 | 課題 | 対応策 |
---|---|---|
分類誤り | 各定義の正確な理解と分類の自動化 | マスタ整備と定期的レビュー |
モデル構築 | PD/LGD/EADの推計精度 | データ品質の確保、プール分類の妥当性検証 |
出口管理 | 与信集中や構造変化の管理 | 定期ストレステストと閾値設定 |
Output Floor | RWが低く出やすく補正対象となりやすい | 並行してSAでの算定・比較を行う |
✅ まとめ
リテール向けエクスポージャーは、IRB方式においてFIRBでも完全な内部推計が求められる例外的なアセットクラスです。
個別与信の精緻な評価ではなく、属性に基づいた統計的管理とプール設計の精度が最重要となります。制度定義の正確な理解と、モデル・データ体制の整備を両輪とする実務対応が不可欠です。