1. 事業法人向けとは?——IRB制度上の位置付け
IRB方式において「事業法人向けエクスポージャー」とは、法人格を持つ営利事業主体に対する与信を指します。
これは、アセットクラスとしては**「事業法人等向けエクスポージャー」**の一部に分類され、以下の3区分と並列で扱われます:
- ソブリン向け
- 金融機関向け
- 事業法人向け
このうち「事業法人向け」は、いわゆる一般企業(非金融・非政府法人)に対する与信全般が対象です。
2. 制度上の分類:特定貸付債権と売上高による分類
事業法人向けは、以下のようなフレームで細分化されます。
■ ステップ①:特定貸付債権か否か
- 特定貸付債権とは、スポンサー支援やプロジェクト特性を前提とした与信(SL)
- 特定貸付債権は、別途「特定貸付債権向け」アセットクラスに分類
- 本稿で扱う「事業法人向け」には特定貸付債権は含まれません
■ ステップ②:非特定貸付債権に対して、売上高または総資産による分類
区分 | 判定基準 | 適用パラメータ | 適用手法の補足 |
---|---|---|---|
中堅中小企業等向け | 通常:売上高50億円未満 ※卸売業・不動産業等:総資産50億円未満 | RW計算式に売上高または総資産をパラメータとして使用 | FIRBベース(LGD・EADは当局指定値) |
中間層 | 売上高50億円〜500億円未満 | 通常のコーポレートと同一 | 特段の制度上区分はない |
大企業向け | 売上高500億円以上 ※「直近3年平均」または「3年ごとに更新」 | FIRB強制適用 | AIRBは選択不可、LGD・EADは当局指定値使用 |
3. 適用手法:FIRBかAIRBか
■ 基本ルール
- 事業法人向け与信は、原則FIRB(Foundation IRB)方式にて処理
- LGDおよびEADは当局指定値の使用が義務付けられています
■ AIRBの適用について
- 一部の与信については、銀行全体としての方針に基づきAIRBを任意適用可能
- 個別与信単位での使い分けは不可
- AIRB適用には金融庁の承認が必要であり、モデル体制・データ品質・管理統制の高度化が求められます
4. 実務対応と内部管理上のポイント
観点 | 留意点 |
---|---|
業種ごとの基準値 | 卸売等については総資産基準を用いる必要あり |
売上高データの更新 | 「3年平均」または「3年ごとの更新」を必ず実施 |
AIRB適用の要件 | 全社方針・当局承認・内部検証体制が必須 |
誤分類リスク | 特定貸付債権・中堅企業等の判断基準を文書化することが重要 |
✅ まとめ
事業法人向けエクスポージャーは、IRB方式において最も件数が多く、かつ制度的に分類が複雑なアセットクラスです。とくに中堅中小企業等や大企業の判定基準には、業種別の基準や売上高更新頻度といった明確なルールが存在することに留意が必要です。